「ひょっとしたら…」の時に知っておきたい、乳がんの初期症状・予防方法
乳房予防切除術とは、乳がん発症リスクを抑えることを目的に、片側、もしくは両側の乳腺を切除する手術のこと。その手術方法としては、乳腺と一緒に乳頭、乳輪などを切除する「胸筋温存乳房切除術」と、乳頭や乳輪は残して乳腺のみを摘出する「皮下乳腺全摘術(乳頭温存乳腺全摘術)」の2つがあります。
この手術は、米国で活躍中の女優、アンジェリーナ・ジョリーさんが受けたことで話題になりました。アンジェリーナ・ジョリーさんの母親は卵巣がん・乳がんを発症して56歳で亡くなっているとのこと。彼女自身も遺伝子検査を受けたところ、将来的な乳がん発症リスクが87%であると診断され、そのリスクを低減させるために予防的乳房切除術を受けることを決断したそうです。
乳房予防切除術の対象となるのは、遺伝子検査でBRCA1もしくはBRCA2に変異が発見された方、血縁者が乳がんや婦人科がんにかかった方、乳がん検診でいつも再検査を勧められる方、既に片方の乳房が乳がんになった方です。
ただし、日本ではがんを発症していない臓器を切除する行為が社会的に受け入れられているとは言えない状況にあります。そのため、予防的乳房切除術を希望する場合、医療機関ごとに設置された倫理委員会などで承認を受ける必要があるでしょう。
ちなみに、BRCA1・BRCA2というのはがんを抑制するたんぱく質を生成する遺伝子のこと。このたんぱく質が傷ついたDNAを修復し、遺伝子の安定性を確保しています。この遺伝子を作る機能が正常に働かず、DNA情報が適切に修復されないと、細胞ががん化してしまうリスクが高まってしまうのです。
乳がんの5~10%は遺伝性であると言われており、血縁者に乳がんや卵巣がんを発症した方がいる場合は発症リスクが高くなるのですが、そうでない場合でも、遺伝性乳がんを発症する可能性はあります。
遺伝性乳がんのリスクを知るためには、遺伝子検査によってBRCA1・BRCA2の変異を調べる必要があるのですが、この検査でも確実な答えが得られるわけではありません。遺伝子検査によって異常が見付からなかったとしても、その人の家系にがん患者が多いケースなどには、現在の検査では見付けることのできない異常が潜んでいる可能性も考えられます。
乳房予防切除術には、乳癌未発症者に対する「両側リスク低減乳房切除術(bilateral risk—reducing mastectomy;BRRM)」と、片側の乳癌発症者に対して対側の乳房を切除する「対側リスク低減乳房切除術(contralateral risk—reducing mastectomy;CRRM)」があります。 日本乳癌学会の発表している「乳癌診療ガイドライン」には、このいずれの手術に関しても乳がん発症リスクが確実に減少するものとして、以下のように位置付けている。
(未発症変異陽性者の両側リスク低減乳房切除術) BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異をもつ未発症の女性に対して,リスク低減乳房切除の実施を検討してもよい。
引用元:BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異をもつ女性にリスク低減乳房切除術は勧められるか (疫学.予防・癌遺伝子診断と予防・ID41450) | 乳癌診療ガイドライン
個人の意思に基づき,BRRMを受けたBRCA1/2遺伝子変異陽性女性(RRM群)と乳房切除を受けなかった女性(対照準)の乳癌発症リスクを前向きに比較検討した研究1)では,対照群の発生率が378人中184人(48.7%)の乳癌が発症したのに対し,RRM群では105人中2人(1.9%)とリスク減少率は90%であった。RRM群において1.9%の術後乳癌が発生したが,その理由は微小な乳腺組織が残存していたことによるものと解釈されている。ただ,この研究での観察期間中央値はRRM群と対照群でそれぞれ5.5年と6.7年と短期間であるため,さらなる長期観察の結果が望まれる。
Mayjers—Heijboerらの前向きコホート研究でも,乳癌の既往がなくBRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異を有する女性139人を対象として,個人の意思でRRMを受けた女性76人(RRM群)と受けなかった女性63人(非切除群)の前向き比較が行われた。RRM群では2.9年の平均観察期間中に乳癌の発症例を認めなかったのに対し,非切除群では3.0年の平均観察期間中に8例(12.7%)が乳癌を発症した。以上よりBRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異を有する女性に対するRRMは3年間の観察において乳癌の発症を減少させると結論付けられている2)。
また,BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異を有する女性に対して,ヨーロッパ,アメリカのPrevention and Observation of Surgical Endpoints(PROSE)consortiumに所属する22施設で前向きコホート研究が行われた3)。その結果,RRM群247人では乳癌の発症が認められなかったのに対し,受けていない女性では3年間で98/1,372人(7.1%)で乳癌が発症した。
以上のコホート研究の結果から,BRRMは乳癌の発症を90~100%抑制していると考えられる。
引用元:BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異をもつ女性にリスク低減乳房切除術は勧められるか (疫学.予防・癌遺伝子診断と予防・ID41450) | 乳癌診療ガイドライン
上記の通り、複数の研究において、BRRMの有用性が確認されています。 BRCA1、BRCA2というのはがん抑制遺伝子のことで、これに変異が生じると遺伝子安定性が低下し、乳がんや卵巣がんを引き起こすと言われています。
BRCA1・BRCA2遺伝子変異を持つ女性は、70歳での乳がん発症リスクは49~57%にも及びます。BRRMに生命予後の改善効果は認められていませんが、発症の予防という観点から検討すべき手術だとされているのです。
CRRMに関しては、これまでに行われてきた複数の研究において、総死亡率の低下を示唆する結果が報告されています。しかも、既発症者の対側乳癌発症リスクは高いことから、日乳癌診療ガイドラインには「実施を検討すべきである」と記載されており、以下の通り、乳がん発症後の、反対側の乳がん発症リスクを低下していることが示されているのです。
これまでの研究で,BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異をもつ女性において,反対側の乳癌が発症するリスクは,後ろ向きコホート研究の結果,初発癌術後10年で43.4%4),別の研究でも初発癌術後25年で47.4%5)と,依然高いことが示されている。
オランダのコホート研究では,148人のBRCA1/2遺伝子変異陽性者のうち3.5年の観察期間で69人のサーベイランス群で6人の乳癌が発症したのに対して,79人のCRRMを受けた群で乳癌は1例しか発症しなかった。この結果,乳癌発症後,CRRM(CPM)も91%の乳癌発症リスクを抑えることが示された6)。また,Kaasらによる研究では,CRRMを受けた107人のうち平均5.4年(580人年)の経過観察中,1例で浸潤性乳癌が発症した。また切除標本で5つのDCISが発見されている。同時に調査したBRRMを受けた147人の中には経過観察期間には癌の発症は認めず,切除標本に潜在癌が7病変認められた。遺残する乳腺組織からの乳癌発症リスクは0.2%/人年未満と極めて低いとしている7)。
引用元:BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異をもつ女性にリスク低減乳房切除術は勧められるか (疫学.予防・癌遺伝子診断と予防・ID41450) | 乳癌診療ガイドライン
CRRMはBRRMとは異なり、生命予後の改善という観点からも「検討すべき予防介入」だと述べられています。
とはいえ、予防的乳房切除術を受けるかどうかは医師が決定するものではなく、対象者自身が決めるもの。BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異を持つ女性であっても、その実施に関しては手術の意義、メリットやデメリットをよく理解した上で検討すべきです。
予防的乳房切除術がもたらすのは、乳がん発症リスクの低減だけではありません。乳がん発症リスクの高いBRCA1・2遺伝子変異を持つ女性にとっては、検診のたびに「乳がんが見付かるかもしれない」という不安に襲われ、日々発症の恐怖を向き合うことは大変な苦痛を伴う可能性があります。
乳がんの発症を90%以上抑制できる乳房の予防的切除は、そういった心理的負担を軽減する効果も期待できるでしょう。
また、予防的乳房切除術を受けた後は、「乳房再建」を受けることもできます。人口乳腺バッグやヒアルロン酸、培養脂肪を注入するなどの方法で、乳房のふくらみや形状を取り戻すことが可能なのです。
乳房を切除することで、乳房の左右バランスが悪くなったり、傷跡が残ってしまったりするだけでなく、精神的に落ち込んでしまう可能性もあります。しかし、乳房を取り戻す方法があるということを知っていれば、予防乳房切除術を前向きに検討できるようになるかもしれません。しかも、予防乳房切除術と同時に乳房再建を行う「同時再建」が可能なクリニックであれば、乳房を失うという辛い経験をせずに済むのです。
ナグモクリニック
総院長 | 南雲 吉則 |
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住所 | (東京)東京都千代田区三番町3-10 乳房再建センタービル |
TEL | (東京)03-6261-3251 |
診療時間 | 平日 9:30-18:00(完全予約制) |
休診日 | 日曜日 |
ナグモクリニックは東京、名古屋、大阪、福岡、札幌にある、バスト医療に特化したクリニック。乳がんだけでなく、健康から美容まで、バストに関する悩みの総合的なケアが可能です。乳房予防切除術と同時に乳房再建を行う「同時再建」も手掛けています。
乳房予防切除術は、予防のためとはいえ健康な乳房を切除する訳ですから、そのこと自体がデメリットと言えます。手術で受ける苦痛や、その後のリハビリなど、身体的な負担を強いられるだけでなく、乳房が無くなることは精神的負担を伴うはずです。
しかも、乳房予防切除術は健康保険の適用外で、それに関連する医療も全て自費診療となってしまいます。そのため、乳房予防切除術を希望する場合には経済的な負担も覚悟しなくてはならないのです。
乳房予防切除術を検討する場合、こうしたデメリットなどについてもよく理解した上で決断することが大切です。
乳房を切除することで筋肉や脇の下の皮膚が縮んでしまい、肩が突っ張ったり、痛みを生じたりします。かといって、手を動かさずにいると筋力の低下を招いてしまい、腕のや肩の可動範囲が狭まってしまう可能性も。関節や筋肉がうまく動かせないと、着替えなどの日常動作にも支障を来たすことになります。
そのため、手術後は少しずつ腕を動かすようにすることが推奨されています。一般的には、一ヶ月も腕や肩の運動を続ければ、元通りに動かすことができるようになるそうです。腕の力まで元通りにするにはさらに半年ほどかかりますが、少しずつ動かす習慣を増やしていけば、次第に本格的な運動もこなせるようになるはずです。最初のうちは、シャワーを浴びたり家事をしたり、といった日常的な動作だけでも良い運動になるでしょう。大切なのは、無理をせず、休まずに続けていくことです。
検査によってBRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異が見付かった場合、乳がんの発症率は50%前後にも上ります。とはいえ、将来的に必ず乳がんになると決まったわけではありません。乳房予防切除術を受ければ、乳がんという命にかかわる病気のリスクを90%以上も抑えられることに加え、発症の不安や恐怖から解放されるというメリットは多くの研究によって明らかにされています。それでも、健康な乳房にメスを入れる手術に抵抗を感じる方も多くいることでしょう。
確実に乳がんを発症すると決まった訳ではありませんし、前述の通り、乳房の切除には様々な身体的・精神的デメリットがあることも事実。そのため、乳房予防切除を受けないという決断をする方もいることでしょう。
その場合、一般的な年齢よりも早い25歳頃から、年に1回程度の乳がん検診を受診することが望ましいとされています。早い段階から頻繁に検診を受けるようにすれば、乳がんを発症したとしても、それだけ早期に発見し、対処することができるようになるわけです。
最近では乳房MRIを使って、従来の検診よりも早くがんを発見できるのですが、乳房のMRI検診は健康保険が適用されないため、費用を自己負担して受診しなければいけません。
MRIを用いない場合はマンモグラフィや超音波検査による乳がん検診を受けることになるのですが、マンモグラフィは放射線を使った検査方法なので、そのリスクについても考えておくべきでしょう。
放射線被曝の影響には確定的影響と確率的影響があるのですが、確率的影響には、遺伝子の突然変異による白血病やがんの発症といったリスクが含まれているのです。この問題については、下記のような研究が行われています。
日本におけるマンモグラフィ検診の利益と被曝リスクを分析した研究は,飯沼武が第17回日本乳癌検診学会で発表した内容を,日本医学放射線学会のホームページからダウンロードできるようにしたものがある3)。この研究は,日本において,30~49歳が2方向,50歳以上が1方向のマンモグラフィ検診を受診したと仮定し,10万人のコホートを動かして検診による獲得余命と被曝による損失余命を算出し,利益・リスク比を求めたものである。仮に実効線量の最大値,50歳未満0.72 mSv,50歳以上0.36 mSvで計算した利益・リスク比を表1に示す。
表1 撮影あたりの吸収線量が2mGyのときの利益・リスク比
年齢(歳) 獲得余命(人年E-05) 損失余命(人年E-05) 利益・リスク比 30~34 71.1 35.8 1.99 35~39 166 32.6 5.09 40~44 267 13.4 19.9 45~49 377 11.9 31.7 50~54 307 5.25 58.4 55~59 254 4.57 55.6 60~64 236 1.88 126 65~69 174 1.56 112 70~74 132 1.26 105 75~79 76.8 0.97 79.2 80~84 41.7 0.12 348 結果をみると,どの年代も利益・リスク比は1.0を超えており,利益が被曝のリスクを上回っている。ただし,30歳代前半に関しては,利益・リスク比が小さく,費用効果分析も含めた検討が必要であるとされている。
引用元:総論1:日本の検診マンモグラフィの被曝について (検診.画像診断・総論・ID51600) | 乳癌診療ガイドライン |
上記の研究データによると、マンモグラフィの発がんリスクは、あっても極めて小さいので「救命効果が証明されている40歳以上であれば利益がリスクを大幅に上回る」と考えられているようです。
しかし、BRCA1・BRCA2遺伝子変異を持つ高リスク群に対して行われた欧州の研究では「30歳以前に検査による被曝を17.4 mGy以上乳房に受けた群では,被曝のない群に対して3.84倍乳癌になりやすかった」という報告もあるため、罹患率の低い29歳以下の場合、マンモグラフィ検診は行うべきではないと考えられています。
BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異をもつ女性にリスク低減乳房切除術は勧められるか (疫学.予防・癌遺伝子診断と予防・ID41450) | 乳癌診療ガイドライン
Q5. 乳がんと遺伝の関係を教えてください。 | ガイドライン
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